人間は「便利」から「不便」に戻れない!~行動実験から学ぶ②

ノーベル経済学受賞者が主張する人間の「保有効果」とは

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あなたは今からスマホなしの生活を1週間できますか?

スマートフォンは私たちの生活に必要不可欠なものになりました。会社の人との連絡手段、コミュニケーションのためのSNS、情報収集のためのインターネットなど、スマホが存在しない世の中は想像しがたいでしょう。

しかしスマートフォンなどなく、折り畳み式の今で言う「ガラケー」をみんな持っていた時代がありました。その前には画面が白黒のPHSもあったと思います。

その時代にはスマホがなくても普通に生活できていたのに、知らないうちに依存しきった生活になってしまい、「スマホ中毒」という単語も聞こえています。

しかしこのように一度手に入れると前の状態に戻れない人間の性質は、行動経済学の実験のとある興味深い実験で証明されていたのです。

あなたが欲しいと思ったものを買うかどうか迷った時、「それが無くても死なないよ」という言葉を強く感じさせてくれる、今回はそんなお話です。

 保有効果にハマる私たち

一般的に一度手に入れたものを失うことはかなり大きな抵抗感を感じると言われております。

つまり何か物や地位などを一度自分のものにすると、それを持っていない状態に戻ることが大変難しいのです。

人間のこのような傾向を「保有効果」と言い、ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンという行動経済学者が実施した実験が面白い形でこれを示してくれているのです。

まずはその実験から見ていきましょう。

たった一瞬の間に手放したくなくなる不思議

実験は大学生を対象に行われました。この大学生をランダムに半分に分けて、半分の学生には大学のロゴマークが入ったマグカップをプレゼントしました。そしてもう半分の学生には何も与えませんでした。

その後すぐに、マグカップをもらった学生ともらわなかった学生にそれぞれ次のような質問をしました。

A.マグカップをもらえなかった学生

「このマグカップを手に入れるためならいくら払うか?」という質問をして、学生たちが答えた値段の平均を求めた。

B.マグカップをもらえた学生

「このマグカップをいくらなら売ってもいい?」という質問をして、学生たちが答えた値段の平均を求める。

この結果、Aで手に入れるために支払う平均金額が「2.87ドル」であったにも関わらず、Bの方は手放すために欲しいと答えた平均金額が「7.12ドル」と2.5倍以上の回答が出たのです。

マグカップというあまり重要でないものでも、短時間の間に手に入れることの数倍の痛みを手放す時に感じるという事実がこの実験で示されたのです。

 手に入れる「喜び」は失う「辛さ」を前借りするだけ

人は知らずのうちに様々なものに愛着が湧いています。それは自分の現在の状況を無意識に正当化したいと思うためです。

つまり何かを持っているならば、持っている自分が正しい状態である。逆に持っていないならば、持っていない自分が正しい状態であると感じるのです。

ここで冒頭の議論に戻ってみましょう。何故私たちはモノを買う時にきちんと悩まないといけないのか?それは、「それがない状態に戻れない」からです。

夏や冬のボーナスによって少しお金がある状態を想像してみてください。財布に少し余裕がある状態なら欲しかったパソコンや話題の最新家電などを買えるかもしれません。

しかしそのパソコンや家電が壊れたなどで買い替えをするとき、きっとグレードを下げることはできなくなっているでしょう。なぜならあなたは一度「便利さを保有」してしまったからです。

つまり新しいものを手に入れて味わえる「喜び」というのは、それを失うときの「辛さ」を前借りしたものでしかないのです。

手に入れることは一瞬で簡単なことですが、手放すことは大変難しい。この事実を忘れずに「物」だけじゃない豊かさを感じられる人生にしたいものです。

(参考文献)池田貴将『図解 モチベーション大百科』

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